2016年春季低温工学・超電導学会 セッション報告

5月30日(月)
A会場 10:30-17:45

高磁場MRIマグネット 1A-a01-06 座長 横山 彰一

本セッションでは、高磁場MRIマグネット開発プロジェクトに関し6件の発表があった。
1A-a01:戸坂(東芝)らは2013年度から実施している高磁場MRIマグネット開発プロジェクトの進捗概要について報告。小口径モデルコイルによる13.5 T発生、小型磁石による1.5 T均一
磁場発生など成果の概要を報告した。
1A-a02:宮崎(東芝)らは上記発表に続き、伝導冷却1.5 T-MRI磁石の開発について報告。内径500 mmの6分割コイルで構成。200 mm球で初期250 ppmをシミングにより4 ppmまで
均一化しファントム撮像に成功。オーバーシュート法により磁場安定度も1 ppm/hr以下と良好な結果が得られた。
1A-a03:宮崎(東芝)らは上記発表に続き、9.4 TフルサイズMRI磁石設計について報告。アクティブシールドコイルを含む4対のコイルで構成している。蓄積エネルギーは293 MJにもなり
4枚バンドル線で約 1 kA通電する。使用する高温超電導線は580 km。
1A-a04:小曽根(早大)らは上記発表に続き、ReBCOコイルの遮蔽電流による不整磁場を低減するために、磁場安定性の改善方法として、オーバーシュート電流の最適量を解析と実測
により求めた。負荷率が高いほどオーバーシュート量が少なかった。
1A-a05:植田(早大/阪大)らは上記発表に続き、9.4 TフルサイズMRI磁石の最適設計と不整磁場評価について報告した。5対のコイルからなることで上記1A-a03発表のコイルより超電導
線材の使用量を低減できる。高磁場化に伴いシムの構成についても言及した。
1A-a06:石山(早大)らは上記発表に続き、MRIコイルの工業化を前提としたシステムの必要性について言及。高磁場化、大口径化に伴う種々の課題と検討について産学連携によるアプ
ローチの重要性についても言及した。


HTSコイル 1A-p01-05 座長 淡路 智

本セッションでは、新しいHTSコイル開発として、REBCOコイルに関して4件、MgB2コイルに関して1件の合計5件の報告が行われた。
理研の柳沢ら(1A-p01)は、これまで開発してきてエポキシ含浸及びパラフィン含浸REBCOのレイヤー巻きコイルの劣化特性について報告した。エポキシ含浸REBCOコイルでは、熱収縮に
起因した剥離力により、冷却で線材が劣化することが良く知られている。パラフィン含浸の場合には、線材間のパラフィンが割れることによって、線材の剥離による劣化がなく、良好な特性
が得られる。しかし、レイヤー巻きコイルの場合には、パラフィン含浸でも強い電磁力によって劣化が起こり、クエンチ・焼損する場合があると報告した。これは、線材同士が接着されていない
ため、コイルの長手方向の圧縮力により線材同士の乗り上げが起こるためとした。一方で、エポキシ含浸の場合、熱応力による剥離を抑えた場合でも、巻き厚が薄い場合にはコイル端部に
応力集中することがあるとした。
東芝の岩井ら(1A-p02)は、かねてから同グループで報告してきた保冷機能付きREBCOマグネットの保冷・通電特性について報告した。コイルと冷凍機の間に熱抵抗をいれることにより、
冷凍機停止後の温度上昇が抑えられることが分かった。
鉄道総研の水野ら(1A-p03)は、磁気浮上鉄道用REBCOレーストラックコイル開発について報告した。2014年に作製していた2個のコイルに今回6個を新たに作製し、合計8個を積層してアルミ
合金製のコイルケースに納めた状態でテストを行った。試験は伝導冷却で36 Kまで冷却して250 Aで40分間の通電に成功した。このときの起磁力は700 Aターンとのことである。用いた線材は
総長で7.6 kmであり、熱伝導確保のため熱融着樹脂を用いてコイル表面に無酸素銅が取り付けられている。発生磁場は曲線部中心で約1.4 Tとなり、計算と良く一致しているとした。
東北大の長谷ら(1A-p04)は、無接続REBCOコイルを用いた磁場測定の結果について報告した。REBCOテープの中心長手方向に切れ込みを入れて、メビウスの輪に似た要領で接続のない
閉ループの3ターンコイルを作製し、そのトラップ磁場の減衰を測定した。その結果、磁場の減衰率から換算した等価電圧は、高電界のn値を用いて外挿した値よりも大きく、クリープの影響が
主体となることが分かった。結果として得られた磁束クリープによる等価抵抗は10 K近傍で約10-15 Ωとなり実用上問題ないとした。
上智大の谷貝ら(1A-p05)は、Columbus社のMgB2素線を想定した大容量素線導体の設計について報告した。想定した素線は、12本の0.1mmフィラメントが埋め込まれた直径1.13 mmのMgB2
である。これを1.75 mmのコアに8本巻き付けた導体の場合、撚りピッチと巻き径の関係について検討した。結果として、製作予定の450 mm内径のコイルの場合、素線撚りピッチが120 mm以上
必要であるとした。この結果を基に実際に導体を作製しコイル製作を行うとのことである。


安定性・保護 1A-p06-09 座長 田中 秀樹

1A-p06 矢代(早大)らは、無絶縁REBCOパンケーキコイルに関し、内径60 mmの小口径コイルの実験結果として、ヒーター加熱量に伴うコイル中心磁場の減少と、ピックアップコイル
での電流経路の変化に伴う磁場変動検出を報告した。会場では、実際の事故を仮定できているか?サーチコイルは減らせるのか?などの質疑があった。
1A-p07 宮尾(北大)らは、無絶縁REBCOコイルのうち、特にダブルパンケーキコイルを対象にした電流分布解析結果を報告した。会場では、下層パンケーキコイルの発熱部分と、その
磁場変動の影響を受ける上層の電流分布変動について質疑があった。
1A-p08 土屋(名大)らは、蛍光低温サーモグラフィーによるREBCOコイル内のホットスポット可視化について、劣化箇所における0.5 K程度の温度上昇を確認した実験結果を報告した。
会場では、蛍光反応の応答速度、蛍光材の寿命およびコイル特性への影響の有無、などの質疑があった。
1A-p09 今川(NIFS)らは、内層Nb3Sn、外層NbTiからなる13 T-700 mmマグネットのクエンチ保護に関し、外挿NbTiでの消費エネルギー割合を増やしNb3Snの銅比を抑え、マグネットの
軽量化を図るための保護回路の解析結果を報告した。会場では、保護方法に加え、コイル形状についても質疑があった。


5月30日(月)
B会場 10:30-17:45

Y系諸特性 1B-a01-06 座長 東川 甲平

本セッションでは、Y系諸特性として、膜や焼結体の作製から応用上重要な特性の理解まで、幅広く貴重な発表が6件あった。
1B-a01:土井(京大)らは、低コスト線材の鍵となる導電性中間層として、SrTi0.95Nb0.05O3を対象に、その導電性のボトルネックとなるNiO層の生成を防止する手法
について発表した。本材料の抵抗率は銅の4桁程度高いものであるが、電流トランスファーの方向には面積が広く厚さも小さいため、基板側への分流が問題なく期待
できるとの言及もあった。
1B-a02:元木(青学大)らは、YBCOについて実績のあるフッ素フリーMOD法をGdBCOに適用した取り組みについて発表した。特にClを用いた手法について紹介し、良好な
配向やTcの向上など有意な結果が得られていた。Jcについては今後に条件を最適化するとのことである。
1B-a03:松本(九工大)らは、これまで77 Kなどの高温領域の特性で最適化されてきたREBCO膜に関して、低温での使用を見越し、磁場中Jcの温度依存性について考察した。
物理的なモデルを用いることで、材料パラメータに関連した議論をできることが特長とのことである。また、基本的にはTcが高いものほど低温の特性も高く、人工ピンを
導入するにしてもあまりTcを低下させるようなプロセスは好ましくないなどとの言及もあった。
1B-a04:長村(応科研)らは、REBCO線材の一軸歪依存性のメカニズムについてモデルを提出した。線材全体ではなく実際に超伝導層が感じている歪を評価した上で、
Jcの歪依存性がab軸の配向の方向とその体積比を考慮することで表現できることを示した。
1B-a05:下山(青学大)らは、REBCO焼結体の作製条件が与える影響を、状態図を用いて詳細に議論した。特に、高温焼結について詳細に調べられており、Caドープした
場合には平板状で電流阻害要因となる247相が生成しやすいとのことで、低温側での作製の新しい可能性について言及があった。
1B-a06:大嶋(山形大)らは、NMR用検出コイルに応用する際に重要となるYBCO膜の低表面抵抗化について報告した。SiをAu保護層ごしに照射した場合の成果について報告
しており、得られた表面抵抗について垂直磁界依存性と平行磁界依存性について考察した。実際にどのような形態の欠陥が導入されているのかなどの質問があり、アモル
ファス状の欠陥導入を想像しているとのことであった。


Bi系・鉄系線材 1B-p01-06 座長 堀井 滋

本セッションでは、Bi2223系および鉄系に関する講演がそれぞれ5件および1件であった。
1B-p01 菊池(住友電工)らはNi合金で貼り合せたBi2223線材の接続に関する報告を行った。接続部分の一部をCu板に置き換えて接続することにより、引張り強度と低接続抵抗
の両立を図れることを示した。
1B-p02 呂(九大)らは、住友電工製の過去および現在のBi2223線材における温度、磁場、磁場印加角度を変数としたJc特性について報告した。2種類の違いは加圧焼成プロセス
の有無にあるが、パーコレーションモデルの解析から、両線材のピンニングは変化せず緻密化によるコネクティビティーの向上で説明できるとした。
1B-p03 久島(九大)らは、住友電工製のBi2223線材(多芯線材)における磁気顕微鏡法で磁化緩和特性について報告した。40 Kでの実験結果から大きな磁化緩和が観測されたが、
フィラメント間のデカップリングは認められなかった。このことから磁化緩和はJ-E特性で理解できると結論付けた。
1B-p04 武田(東大)らは、ドクターブレード法による銀基板上へのBi2223厚膜の作製について報告した。銀箔で包み中間一軸プレスを含めたプロセスに加えて、3 kPaの酸素分圧、
800℃の熱処理を行うことで7000 A/cm2の粒間Jc(20 K)を実現した。
1B-p05 波多(九大)らは、Bi2223薄膜を得るためにスパッタ法で作製した積層前駆体(Bi,Pb)2212/Pb-Ca-Cu-Oの熱処理前後のTEMによる微細組織の変化について報告した。
本発表で取り扱った試料においては、熱処理前試料の断面組織および組成分析から、Pb-Ca-Cu-O層はPbを含んでいないことやCa、Cuリッチの粗大粒の生成が認められ、熱処理
後のBi2223相の生成に大きな影響を与えていることを示した。
1B-p06 岩崎(慶大)らは、Ag/Feシースと鉄系超伝導体Sr2VFeAsO3-d(いわゆる22426相)粉末を用いた線材化について報告した。1111系と同様にAsのFeシースへの拡散がEDX
線分析より認められた。FeAs系の線材化における課題としてAsの組成制御が重要となることを示した。


MgB2(1) 1B-p07-09 座長 児玉 一宗

1B-p07: 一瀬(電中研)らは、EB蒸着法により作製したNi導入MgB2薄膜における真空中アニール前後の微細組織の変化を、透過型電子顕微鏡により観察した。アニール前後で、微細
組織、組成、結晶配向性が変化していることが示唆された。
1B-p08: 堀井(京大)らは、EB蒸着法により作製した膜厚の異なる3種のMgB2薄膜およびMgB2とNiを交互に3層ずつ積層した薄膜に対する、真空中アニールの影響を調べた。アニール
によりTcが向上してJcが改善するが、TcJcの改善度合いやJcの磁場依存性は、膜厚とNi層の有無に依存することを示した。
1B-p09: 井上(九大)らは、集合導体化のための各工程における内部構造の変化を、X線マイクロCTにより観察した。複数素線(30芯)の撚り線加工後の内部構造は健全であったが、
その後に減面加工を施すと素線内のバリアが破れフィラメントのブリッジングが起こることを示した。


5月30日(月)
C会場 10:30-18:00

A15線材 1C-a01-06 座長 杉本 昌弘

A15線材のセッションでは、Nb3Sn線3件とNb3Al線3件の発表があった。
1C-a01:谷口(大阪合金)は、Nb3Snフィラメント周囲の銅母材を強化するために試作した10種類の二元系銅合金の機械特性を評価し、Cu-1mass%Beが高強度化に有効であると述べた。
1C-a02:菱沼(NIFS)は、Cu-Sn-Zn合金を母材としたブロンズ法Nb3Sn素線の母材硬度とIc-歪特性を調査し、Nb3Sn生成熱処理後に母材に残存するZnによって機械強度が増大すると
報告した。
1C-a03:伴野(NIMS)は、Cu15wt%ZnまたはCu5wt%Geを母材とした内部スズ法Nb3Sn多芯線を評価した。Nb3Sn生成時後、Znは母材に残留し、GeはTiと結合してフィラメント周囲に層を
作ることの効果について述べた。
1C-a04、a05:伴野(NIMS)は、銀バリア型RHQT法Nb3Al線材の開発状況と、拡散法Nb3Al線材開発の現状と将来展望について報告した。
1C-a06:菊池(NIMS)は、フィラメント間バリアをRHQ処理後に合金化したRHQT法Nb3Al線材を評価した。Ta/NiバリアとJRフィラメントを組み合わせると硬度バランスが良く、フィラメント形状
が改善され、先行評価において18 TでのJc特性が2割近く向上したと述べた。


Y系・MgB2バルク(1) 1C-p01-05 座長 岡 徹雄

松本和也(東大、1C-p01)らは、Gaを添加したY系超伝導バルクをY211を基材としたInfiltration法によって合成し、Y211粒子の状態を組織観察によって評価してGa0.5モル%の添加がJc
向上に有効であることを示した。
瀬戸山結衣(東大、1C-p02)らは、Agを添加したREBCO溶融バルクをGdとDyの混合系で作成した。Ag添加によるJcの向上が見られたことは、Ag原子がCu-O面に固溶してCu原子を置換し、
ピン止め点となっていることを示唆した。
ケンブリッジ大との共同研究を進める稲垣絵梨子(岩手大、1C-p03)らは、同組成のバッファ層を種結晶と前駆体の間に設け、溶融成長後のY211粒子の分布状態や、空孔の分布、巨視的
なサブグレインの生成について観察して考察を行った。
荻野新(岩手大、1C-p04)らは、Infiltration法によってB結晶粉末のペレットにMgを溶融反応させたMgB2バルクを作成し、その組織観察とXRD分析により合成法の最適化を試みた。
高橋裕平(岩手大、1C-p05)らは、Ti族を添加してプラズマ焼結(SPS)したMgB2バルク体のTcを評価し、20%の高濃度のTi添加でも高いTcが保たれることを示した。またXRDによる組織
解析を行い、合成条件の違いによってTiB2がピン止め点として振舞うことを示唆した。


Y系バルク着磁 1C-p06-10 座長 石原 篤

1C-p06:岡(新潟大)らはY系バルク体に対する複数回パルス着磁法において、最終パルス印加前の残留磁場分布の形状、試料のJcによって、磁束侵入挙動が変化することを報告した。
1C-p07:横山(足利工大)らは開発した卓上型超伝導バルク磁石装置を用い、φ60×20 mmの大型Y系バルク体に対し約50 Kにおいてパルス着磁を試みたところ、バルク体の大型化に
伴い総磁束量が増加したこと、5.4 T以上の印加磁場になると、小型バルク体ではみられなかった発熱による臨界温度近くまでの温度上昇が確認されたことを報告した。
1C-p08:高橋(岩手大)らはソレノイド型とスプリット型コイルを用いたパルス着磁の実験・解析を実施し、スプリット型コイルの方が高い捕捉磁場が得られること、さらにヨークを用いることで
磁場強度、均一性が向上することを報告した。
1C-p09:藤代(岩手大)らはMgB2バルク体に対し、スプリットコイルに軟磁鉄ヨークを挿入してパルス着磁を行った結果を報告した。ヨークに磁束が引き付けられることにより捕捉磁場が
向上し、パルス着磁で世界最高値となる1.1 T@13 Kの捕捉磁場を達成した。
1C-p10:森田(新日鐵住金)らは小型QMG®リングに対し、一定の外部磁場を残した状態での磁束密度の温度依存性を系統的に測定することで、Jcの温度、磁場依存性を推測する手法
を報告した。本手法はバルクマグネットの設計において必要とされる、バルク全体としての平均的なJcを与えるものであり、実践的な評価手法と言える。


5月30日(月)
D会場 10:30-18:15

小型冷凍機 1D-a01-06 座長 沼澤 健則

本セッションは6件の発表が行われ、小型冷凍機のみならず、磁気冷凍や材料、超低温冷凍機など多彩な内容であった。
1D-a01:宮崎(鉄道総研)らは、室温磁気冷凍(磁気ヒートポンプ)のAMRサイクルにおいて磁性材料を多層化した効果について評価を行った。単層よりも二層にした方の発生温度スパンが
増大しており、所定の効果が見られた。
1D-a02: 増山(大島高専)は、蓄冷器の形状について性能評価を行っており、今回は蓄冷器の中心部にベークライトのロッドを設置した場合の冷凍特性を調べた。ベークライトの有無に
よって冷凍能力に相違が生じ、特定の温度領域ではベークライトを挿入する方の冷凍能力が向上する結果が得られている。
1D-a03:中川(大阪大)らは、希土類窒化物磁性体Er0.5Ho0.5Nを磁性蓄冷材として作製し、粒径についての冷凍能力依存性を調べた。その結果、180-212 µmの領域で冷凍能力が増大する
傾向が明らかとなった。
1D-a04:宇治山(金沢大)らは、磁気冷凍用磁性体の磁場中熱伝導率測定について、性能評価を行った。定常熱流法を用いた装置を試作し、SUS304を測定した結果、4-150 Kで4%、室温
領域で2%程度の誤差で測定できることを示した。
1D-a05:朱(中国・同済大学)は、コールドイナータンス接続管型パルス管冷凍機について、数値計算を用いて性能の評価を行った。冷凍機だけではなく、低温のエンジンとしても使用できる
ことを特徴として示していた。
1D-a06戸田(東大)らは、コンパクトなサブmKの発生システムとして、PrNi5を使用した磁気冷凍機について提案した。これは基本的には断熱消磁冷凍機であるが、2つのユニットを切り替える
ことによって連続的に発生しようとするものである。これまでに50 mKレベルでは実現されている技術であるが、超低温領域に応用するのは初めてであり、今後の開発が期待される。


HTSデバイス 1D-p01-05 座長 藤巻 朗

HTSデバイスセッションでは、計5件の発表がなされた。
岡山大学の発表は、時計の針の先端部に対応する箇所に試料を設置し、電磁石で磁場を印加するとともに、試料を回転させた際の磁気応答をSQUIDにより計測するシステムを利用
している。「1D-p01:一色(岡大)」は、免疫検査などへの応用が期待される磁気ナノ粒子の水溶液中の振舞いを計測し、磁化率や磁気緩和時間の測定に成功した。
「1D-p02:中村(岡大)」は、砂の水分量計測に挑み、高調波を利用する方法で、非破壊・非接触・迅速・高精度な計測の可能性を示した。
「1D-p03:廿日出(近大)」「1D-p04:増谷(近大)」は、金属管の欠陥を遠隔検出することを目標に、第一段階として、金属管を伝搬する超音波ガイド波のSQUID勾配計による計測を
試みた。高分子圧電フィルムを利用した計測と比較すると約1桁優れたSNRが得られており、高い潜在能力が示された。
「1D-p05:辻本(京大)」は、Bi-2212固有接合から放出される高バイアス領域でのTHz電磁波強度が、hot-spotサイズを低減化することで上昇することを示した。THz電磁波発生器の
実現に近づく成果となる。


LTSデバイス 1D-p06-11 座長 廿日出 好

横国大の阿部らはSFQ回路における微小電流検出のため、ジョセフソンコンパレータの回路パラメータの最適化を行い、最小グレーゾーンの低減を図った結果、試作した回路で従来
よりも小さい0.9 μAのグレーゾーン幅が得られた。
同じく横国大のFangらは、AQFPの高速動作のため、double-excitationモードでAQFPを動作させ、実験およびシミュレーションにより5 GHzの冷気電流で10 GHzのXORゲートの動作を
実証した。
横国大の佐藤らはネットワーク型侵入検知システム(NIDS)などに応用されるCEP(Complex Event Processing)用のSFQ CED(Complex Event Detector)をシミュレーションと実験で
検討し、30~50 GHzで動作する4シンボル検出用のCED回路の動作を実証した。実用化のため、正規表現への対応などが期待される。
名大の谷口らは、SFQ回路やSQUIDの上に磁性体をパターンし、電流制御の磁化により位相を調整する超伝導位相シフタについて検討しており、パターンした複数の磁性体に対して
二つの印加電流の組み合わせで残留磁化がどのように変化するか、電流印加と磁性体パターンの有効性について調査した。
産総研の天谷らは、半導体AC/DC電源と組み合わせたAC-PJVSを用いてサーバルコンバータの評価し、100 Hz以下の低周波において、従来のサーマルコンバータの不確かさを
大きく上回る1.3 ppmの不確かさを実証し、交流電圧標準の不確かさを大幅に改善できることを示した。実用化にむけた進展が期待される。
名大の藤巻らは、超伝導デジタル回路の冷凍機冷却システムとして、1本の同軸ケーブルあたり1 mW以下の熱流入を実現するため、100 mKの冷凍機のリード部に、厚さ0.25 mmの
YSZ基板上にYBCOを蒸着、パターニングして導波路を形成した。これにより約3 mK程度の熱流入が確認され、さらに薄い0.05 mmの基板を用いることで同軸ケーブル1本あたり1 mW
以下の熱流入の実現の目処はたった。実用的に使用するためには、冷凍機振動による導波路の接続ボンディングの切断や脱着式コネクタ部の接続の安定化などの課題を解決する
必要がある。


5月30日(月)
P会場 ポスターセッションI 13:50-15:05

計測・基礎 1P-p01-03 座長 野澤 正和

1P-p01:佐保(クライオイン)らは、再生医療分野での応用を目的とした、安価で高精度の磁気力計測器の開発を行っている。磁気力が磁性幹細胞へ及ぼす力を把握し易くするため、
磁気力係数の算出が可能な計測装置の提案がなされていた。計測装置は、低電圧で駆動する空圧アクチュエータを用いているため、使用場所の制限も受けないという利点もあった。
1P-p02:大鹿(名城大学)らは、低環境負荷の誘電・絶縁材料として、氷に着目している。氷に分極を保持させた氷エレクトレットを作成し、脱分極電流の特性を明らかにした。これまで
は、氷の融点付近で大きな脱分極電流が流れることが確認されていたが、今回の報告では、126 K付近でも脱分極電流が流れることが示されていた。
1P-p03:杉野(鉄道総研)らは、磁気浮上式鉄道用の超電導電磁石の状態監視を目的とした、極低温環境で使用可能な可視化技術の検討を行ってきている。今回の報告では、ヒート
サイクル試験、振動試験、冷媒浸漬試験についての報告がなされた。CCDカメラは250 K程度まで温度上昇しないと信号が回復しないものの、今回の試験条件では、計測機器に異常は
発生しなかった。


Y系線材特性 1P-p04-05 座長 井上 昌睦

1P-p04:伊藤(九大)らは、BaHfO3を添加したEuBCO線材の交流損失特性の積層枚数依存性を鞍型ピックアップ法により計測し、その予測法について検討を行った。その結果、以前
評価したREBCO線材と同様、積層枚数を変化させた交流損失は、温度スケーリング則を適用することにより、積層枚数1枚の場合の交流損失から予測できることを報告した。
1P-p05:Vyatkin(中部大)らは、近年検討が進められている強磁性体を高温超伝導線材の周囲に配置することで、線材面に垂直な磁場を低減させ、線材性能の向上を図る手法について、
JMAGを用いた解析を行った。強磁性体の形状及び線材からの距離を変数として詳細な検討を行っている。また、ツイストが磁場の均一性を向上させるのに有効であることを、同手法を
用いた解析により示した。今後は、磁場分布の改善に伴う超伝導特性の向上についての議論が期待される。


Y系線材・薄膜 1P-p06-09 座長 堀出 朋哉

1p-p06:泊瀬川(東北大)らはHTSでのクエンチ検出を目的としてLTS/HTSハイブリッドテープ線材を提案した。NbTi/YBCOからなるLTS/HTSハイブリッドテープ線材において熱および
電流分布を計算することにより、HTSで発生する熱をLTSで検出することが可能であることが示された。
1p-p07:牧原(熊本大)らはピンニングセンターとしてGd3TaO7をYBCO薄膜に導入し、薄膜のピンニング特性を議論した。ターゲット(混合ターゲット法、表面装飾ターゲット)、
成膜温度、導入量をパラメータとして薄膜作製を行った。XRDによりGd3TaO7が観察されたが、今回の条件ではJc角度依存性の明らかな向上は見られていなかった。
1p-p08:末永(熊本大)らはBaSnO3/YBCO疑似多層膜を作製することにより、BaSnO3ナノ粒子の面内および面直方向の分布制御を行った。作製した薄膜において、Jc角度依存性の変化を
議論し、ナノ粒子がピンニングセンターとして機能していることを示した。
1p-p09 岩永(熊本大)らは柱状欠陥を導入したYBCO薄膜において縦磁場効果の評価を行った。柱状欠陥を導入していないYBCOでも縦磁場効果を示すJcピークがみられており、柱状
欠陥を導入するとJcピークが小さくなることが報告された。


き電線 1P-p10-11 座長 筑本 知子

本セッションでは、き電線に関するポスター発表が2件あった。
1P-p10:富田(鉄道総研)らは、超電導き電ケーブルシステムの断熱管構造について、アルミテープ(Al)、多層断熱膜(SI)、ポリエチレンワイヤ(PE)の層数、重ねる順序の異なる5種類の
断熱管(コルゲート管、5 m長)を試作し、断熱管構造による熱侵入量の変化について測定結果を報告した。その結果、PE(1)-Al(1)-PE(1)-SI(10)(括弧内は層数)の順に重ねた場合が
最も熱侵入量が小さくなることが見出された。また、試作した断熱管の熱侵入量の曲げ半径および真空度依存性についても報告した。
1P-p11:富田(鉄道総研)らは、超電導き電ケーブルシステムの予知保全技術について、GM冷凍機に振動センサーを取り付けた基礎試験結果について、報告した。正常時のデータ
解析をもとに今後予知保全システムの構築をめざすとのことである。


電力・電気機器 1P-p12-17 座長 中村 武恒

1P-p12:九州大学の福田らは、500 kW級全超電導同期電動機の設計検討結果を報告した。EuBCO テープを想定し、市販のソフトを使用して、異なる極数に対する特性比較を行った。
8極機について最も交流損失が低くなるという結果が報告された。
1P-p13 鉄道総研の宮崎らは、高速列車走行に伴うトンネル内圧力・流速変動の予測・低減技術確立の一環として、電磁石による超電導バルク冷却容器の浮上・案内支持試験装置の
検討を行った。浮上高さ10 mm の場合について、浮上力: 14 N,案内力: 10 N程度を実現した。
1P-p14:鹿児島大学の平山らは、工作機械他における大推力直動装置の実現を目指して、高温超伝導励磁巻線をもつコアレスリニアスイッチトリラクタンスモータの設計を行った。片側
および両側励磁方式など、4種類のモデルについてHTS 励磁巻線の体積と静推力の比を比較検討した。
1P-p15:岡山理科大学の河村は、電機子内の磁束をキャンセルさせる自己無誘導型超電導モーターの研究開発の一環として、プロトタイプ機における超電導線の交流損失や磁界シミュ
レーション結果に基づく回転特性を報告した。駆動周波数60 Hz・最大出力360 kW ・通電電流150 A(超電導線長: 1 km)の場合について、 出力重量比10 kW/kg 以上、損失 2.4 kW、最大
効率 99.3%であった。
1P-p16:上智大学の水落らは、浄水場用電力・水素複合エネルギー貯蔵システムへの導入を想定し、短周期変動補償用の10 MJおよび27 MJ級SMES コイルの設計結果を報告した。
4ポールマルチコイルを対象として、液体水素(20 K)冷却のMgB2 導体を用いる場合について、必要導体量が少なくなるコイル形状が検討された。
1P-p17:九州大学の徳地らは、超伝導変圧器と超伝導ケーブルの限流協調に関する解析的検討結果を報告した。6.9 kVの配電系統を対象とし(超伝導変圧器の変圧比:66 kV/6.9 kV)、
REBCOテープ材を使用した機器を想定して解析したところ、有意な限流効果が得られた。




5月31日(火)
A会場 9:15-18:15

遮蔽電流磁場 2A-a01-05 座長 植田 浩史

2A-a01 曽我部(京大):本発表は、薄膜超電導線材で巻かれたコイルの電磁界解析において軸対称近似の影響を評価したものである。現在、高温超電導コイルの遮蔽電流の解析に
おいては、軸対称近似や入れ子モデルといった近似を適用されている。これらの近似により、幅方向の電流分布が正確に考慮できない、遮蔽電流の経路が異なることに依る時定数の
違いなどの誤差が発生することが懸念される。今回、厳密形状と軸対称近似の解析を行い、これらの問題点を検討した。50ターン/パンケーキ、30パンケーキコイル積層のコイルを
対象に解析した結果、幅方向の電流分布や時定数については問題ないことを確認した。
2A-a02 雨宮(京大):遮蔽電流が顕著に誘導される薄膜線材において、線材を多芯化することで遮蔽電流を抑制することが提案されている。しかし、薄膜線材ではツイストができない
ため、結合時定数が低減できないことが懸念される。本発表は、多芯化薄膜線材の結合時定数について実験と数値計算によって評価したものである。励磁中は遮蔽電流について多芯化
の効果はほとんど表れない。励磁完了後、一定磁界になった後、遮蔽電流はフィラメント間の横断抵抗によって減衰が始まる。数値計算によって、多芯化薄膜線材を巻線されると、同じ
長さの直線状線材と比較して、巻数が増えるに従って、結合時定数は桁違いに大きくなる結果が得られた。巻線端部の電流リードとの接続部の半田の影響について質問があった。
ある程度の横断抵抗を持たせて、結合時定数を小さくしても、端部の接触抵抗が小さいと、そこを介して遮蔽電流のループが出来てしまうのではないか、というものである。その可能性
は否定できないので、検討する必要があるとのことであった。
2A-a04 本田(九大):従前より柁川(九大)が提案している異常横磁界効果を利用した薄膜線材の遮蔽電流低減について発表である。外部交流磁界を印加する方式であるが、これ
までは銅コイルを別途用意していた。今回の発表では、超電導コイルの内側と外側の一部を交流磁界印加に利用しようとする提案をし、実験によって検証を行った。その結果、交流
磁界を印加することで、従来と同様に遮蔽電流磁界が低減されていくことが確認された。超電導コイルの一部に交流電流を流すため、交流損失の影響とそれによる温度上昇について
質問があった。遮蔽電流磁界の低減効果が線材の磁界印加による電流分布の変化によるものなのか、交流損失の温度上昇によるものなのか、どちらが支配的なのか、といことである。
2A-a05 鍋倉(九大):REBCO線を4本スクライビングしたものを巻線した超電導コイルの磁化緩和を測定し、解析した結果を報告した。4本スクライビングの線材に対してIc近傍で通電
すると、遮蔽電流が抑制される効果を確認した。4本スクライビングした線材の特性について質問があった。4本スクライビングすることによって、n値が30から9まで低下しているため、
n値をどのように定義しているのか、今回の実験で対象にしている電界領域がどの範囲なのか、という質問があった。


5月31日(火)
B会場 9:15-10:30

人工ピン(1) 2B-a01-05 座長 土井 俊哉

本セッションでは、SmBCO線材への人工ピン導入に関して5件の発表があり、何れの発表も非常にレベルが高い内容であり、活発な議論がなされた。
2B-a01:三浦ら(名大、東北大、電中研、九工大、産総研)は、低温成膜(LTG)手法および通常手法でBaHfO3(BHO)添加SmBCO薄膜を作製し、低温域において広範な磁場下(1-15 T)
Jcの磁場印加角度依存性を詳細に評価し、ナノロッド形態の違いが低温域の磁束ピンニングに与える影響について報告した。通常およびLTGいずれの手法で作製した試料においても
4.2 Kにおける支配的なピンはランダムピンであること、LTG手法で作製した薄膜中のナノロッドはファイヤーワークス構造で短く切れていること、この試料の最大Fpは1.7 TN/m3と非常に
大きいことを示した。
2B-a02:土屋ら(名大、東北大、九工大)は、低温成膜(LTG)手法を用いて作製した3.0-4.5 vol%BaHfO3(BHO)添加SmBCO薄膜の低温高磁場中の輸送測定結果を報告した。LTG手法で
作製したBHO添加SmBCO薄膜は低温強磁場中での応用に向いており、4.2 K、 22 T、c軸//BでのFp~1.8 TN/m3(世界最高値)と大きいことを示した。
2B-a03:道木ら(名大、産総研)は、Reel-to-reel Nd:YAG-PLD装置を用いて、IBADテープ上にBaHfO3(BHO)添加SmBCO薄膜を低温成膜(LTG)手法で連続的に作製し、30 mm長の試料
においてJc=2.6 MA/cm2と高い特性が得られたことを報告した。
2B-a04:草深ら(名大、電中研)は、比較的太いナノロッドを形成するBa2SmNbO6(BSNO)、細いナノロッドを形成するBaHfO3(BHO)及び両者を同時に添加したSmBCO薄膜を作製し、それら
の微細組織観察および超伝導特性について報告した。BSNO+BHO添加薄膜においては径の異なる2種類のナノロッドが形成され、両方のナノロッドがそれぞれ異なる磁場領域で効果的に
ピンニングセンタとして働くことを示した。
2B-a05:西山ら(名大、東北大、電中研、九工大、産総研)は、SmBCOと同じ結晶構造を有しながらも常伝導体であるPrBCO、およびSmBCOをSeed層に用いたBaHfO3(BHO)添加SmBCO
薄膜を低温成膜(LTG)手法で作製し、磁場中Jc特性について報告した。PrBCOをSeed層として使用することで磁場印加によるJcの低下を抑制(77 Kにおける磁場中Jcを向上)できることを
示し、この結果はPrBCOが常伝導であるためにSeed層内に量子化磁束が生じさず、その上に形成したBHO添加SmBCO層の磁束キンクを誘発しないことによると考察した。


5月31日(火)
C会場 9:30-10:30

核融合(1) 2C-a01-04 座長 大内 徳人

核融合(1)のセッションでは4件の報告があり、その内訳は核融合原型炉に関する報告が2件、LHDポロイダルコイルの長期信頼性に関する報告が1件、JT-60SAポロイダルコイル
製作状況に関する報告が1件であった。4件の全ての報告に関して、質疑応答が活発に行われ非常に充実したセッションであった。
「2C-a01:西村(NIFS)」の原型炉設計活動についての報告では、ITERの建設が大幅に遅れているとのことで、ITERのデータを原型炉設計に取り入れる時期・内容を検討することが
重要である印象を受けた。
「2C-a03:高畑(NIFS)」によるLHDの18年間の運転で得られた交流損失、それに関連したデータは非常に得難いものである。今後設計される核融合の導体設計・運転条件に反映
されるべきものである。
「2C-a04:村上(量研機構)」では、JT-60SAのコイル製作状況の報告の他、パンケーキ間導体接続に使われているButt Jointの現状について報告が行われた。コイル全体が完成後
にButt Jointの不良が見つかった場合の対処方法についての質問があった。システムを完成させる上では重要な課題である。


5月31日(火)
D会場 9:15-10:30

宇宙低温 2D-a01-05 座長 村上 正秀

2D-a01 高田(核融合研):発泡多孔質銅を表面酸化黒化処理して作る高放射率材料が開発された。放射率の温度依存性(50 K以下)についても計測が始められている。今後の
研究の進捗と極低温宇宙観測機器への応用が期待される。
2D-a02~05金尾、吉田(住重):30年にわたる住友重機械の宇宙観測機用クライオスタット開発の技術史的概観と、この2月に打ち上げられたX線天文衛星「ASTRO-H」搭載軟X線
スペクトロメータ用デュワー開発に関する発表。衛星本体は運用の断念が決まったが、そこに搭載されたデュワーは、成功裡に所定の50 mK冷却に成功していたことが確認されて
いる。発表では、その設計から冷却機開発までの経緯と、打ち上げ後のクライオスタットの低温機能状況について説明があった。


5月31日(火)
P会場 ポスターセッションII 13:00-14:15

冷却システム(1) 2P-p01-02 座長 仲井 浩孝

2P-p01:イワノフ(中部大)らは、石狩プロジェクトで地上部に設置された高 温超伝導送電ケーブルの断熱二重配管(全長1 km)の真空排気について、その排 気特性の測定結果
を報告した。太陽光が配管に当たる場合や真空ポンプを切り離 した場合に断熱配管の真空度が悪化することから、配管内がまだ「枯れて」いな いか、あるいは、どこかにリークが
あるようである。これらの問題点は解決可能 であるので、配管接続部のコンダクタンスを増加させるなどの改善を行えば、少 ない真空排気ポートでより長距離の断熱配管を排気
できるようになると期待できる。
 2P-p02:山内(中部大)らは水冷ジャケット付きペルチェ電流リードの最適電 流値評価試験の結果を報告した。ペルチェ電流リードは電流リードを流れる電流 によるペルチェ効果
を利用したもので、電流リードからの熱侵入の軽減を目指し たものである。電流値が0の時にはむしろ熱侵入量が増えることから、ペルチェ 効果が有効であることを示している。
現時点では熱侵入量が最小になる最適電流 値が100 Aであるので、目標とする1 kAの電流を流すためには、この電流リード を並列に10本にするなどの対策が必要である。


MgB2(2) 2P-p03-04 座長 一木 洋太

2P-p03:齊藤(芝浦工大)らは、In-situ PIT法、IMD法のMgB2線材における、スエージング加工および炭素添加が通電特性に与える影響に関して報告した。PIT線材については前報
の通り、スエージング加工による高密度化の効果が大きく、従来の溝ロール+線引き加工よりも高いJcが得られた。IMD線材については、そもそも拡散によって高密度なMgB2
得られるため、スエージング加工による明らかなJc向上は見られなかった。
2P-p04:藤井(NIMS)らは、市販MgB2粉末を原料とするex-situ法線材における、タングステンカーバイド(WC)による粉砕処理の効果について報告した。粉砕処理時間をパラメータとした
場合、Jcは10 hでピークとなり、その後はWCの混入により逆に低下する。粉砕処理によって活性化した未熱処理の線材試料は、大気中での劣化が激しく、取り扱いに注意が必要とのこと。


Y系・MgB2バルク(2) 2P-p05-08 座長 横山 和哉

2P-p05:末海(海洋大)らは、GdBCOバルク体の作製において冷却速度制御溶融成長法を適用し、徐冷速度を適切に調整することにより従来の半分の時間で単結晶の試料を作製する
ことに成功した。
2P-p06:石原(鉄道総研)らは、MgB2バルク体の作製において、試料のプレス圧を制御することで空隙量を調整できることを明らかにし、更にプレス圧と捕捉磁場の関係を評価した。
2P-p07:井上(芝浦工大)らは、溶融法で作製したYBCOバルク体においてカーボンナノチューブをピンニングセンタとして導入し、ゼロ磁場で無添加の場合と比較して2倍のJc向上に成功した。
2P-p08:村上(一関高専)らは、外周ほどYの添加割合を増加させる組成勾配法を適用して大型GdBCOバルク体を作製し、境界部でも機械的特性が劣化しないことを確認した。


核融合(2) 2P-p09-10 座長 王 旭東

2P-p09:尾花氏(NIFS) JT-60SAの中心ソレノイド用バットジョイントの性能評価に関する内容で、接続部の界面状態をFE-SEMで観測した。接続方法として、Nb3Snケーブル間を0.1 mm
の銅シートを介して拡散接合されている。SEM観察結果から、Nb3Snケーブルと銅シートの間にギャップなく適切に接合されている。しかし、銅シートに向かって接続付近のNb3Snフィラメント
に亀裂が生じている。この原因として、接合時の圧縮応力を挙げ、簡易応力計算モデルにより生じる応力の概算をした。今後、より精度の高い評価および接合時圧縮応力の選定に関する
研究を期待する。
2P-p10:寺崎氏(総研大) 核融合科学研究所で進められているヘリカル型核融合炉FFHR-d1への適応を想定した100 kA 級の高温超伝導導体STARS(Stacked Tapes Assembled in Rigid
Structure)の熱安定性解析について報告された。STARSはY 系 HTS テープ線材を単純積層した構造で、周囲に銅とSUS316ジャケットでカバーすることにより熱安定性と機械強度を高め
ている。発表では、導体長手方向の1次元熱解析によりホットスポットの発生から長手方向への熱分布を評価している。今後は、2次元解析などより詳細な評価手法を期待する。


磁気分離(1) 2P-p11-14 座長 西嶋 茂宏

磁気分離(1)では4件の報告があった。いずれも水処理の研究であり、1件の放射性セシウム除去、2件の磁化活性汚泥法、1件の凝集沈殿法の高度化の研究報告である。
まず、2P-p11は、新潟大学、足利工業大学、JNCによる超伝導バルク磁石を用いたCsの磁気分離の研究である。ポイントは水中のCsイオンを想定していることで、汚染水処理が目的である。
通常、汚染廃棄物処理ではCsが対象物に付着しており、その脱離に工夫を要するが、本研究では水中に既存のCsイオンを対象にしているため、その問題はない。Csイオンはフェロシアン化合物
で吸着させる。その吸着体に鉄イオンを添加して、磁性Cs結合体を合成し、磁気分離する。このプロセスではpH制御が重要である。その後、超伝導バルク磁石で磁気分離をする手順である。
目標除去率は99.9%、120 L/hで、それらを達成している。
続いて2P-p12は、宇都宮大学とその共同研究者による磁化活性汚泥法の可搬型パイロットプラントの標準化とその性能の検証研究である。2台のクーラントセパレーター(永久磁石が設置
されている)を直列に配置し、活性汚泥の分離効率を増加させている。これを酪農廃水処理に利用したのであるが、従来の、活性汚泥処理設備の後段に当該パイロットプラントを設置し、廃水
の浄化を行っている。パイロットプラントの組み立ては現地にて短時間で行えた(1日)が、運転のための条件出しに数ヶ月を要した。セットアップ作業の標準化も課題であろう。廃水処理性能は
良好であった。なお、当研究の対象は酪農廃水であるため、磁性粉が吸着しにくいSS成分もある。このため別途、砂ろ過等の追加設備の必要性も明らかになっている。当該施設の実用化に
向けて、着実な進展が見られる。
2P-p13は宇都宮大学による磁化活性汚泥法の研究の一環で、今回、特筆すべきは、従来の永久磁石から超伝導磁石に置き換えたときの得失評価が行われたことである。磁化活性汚泥法とは、
廃水処理法の現在の主要な処理法である活性汚泥法の一種である。活性汚泥に少量のマグネタイトを添加して汚泥を磁化させることにより、磁気的に制御できるようになる。この制御により汚泥
の高濃度化を達成し、汚泥の自己消化を可能にし増量を防ぐことができるようになる。このため従来の活性汚泥法に比較して高効率に廃水処理が可能となる方法である。この磁気力の制御に
従来は永久磁石を利用していたが、今回は超伝導磁石導入の可否を議論したものである。超電導化のメリットは、高速化、大容量化であり、SS(懸濁物質)濃度の大きい場合に有利である。
さらなる定量化がなされると、超伝導化のメリットが出る規模が明確になることを期待したい。
磁気分離法の新たなメリットである脱水効果が、宇都宮大学により報告された(2P-p14)。凝集沈殿法は広く廃水処理に利用させている方法ではあるが、沈殿物は、回収-脱水-焼却-埋立の
処理をする必要がある。ところが従来の手法では、沈殿物(SS)濃度は、1 Lの水に対し10-20 ㏄程度の沈殿物しかない。一方、磁気分離を実施すると、最大200 ㏄/L(200 g-SS/L)に濃縮される。
このため、脱水-焼却のプロセスにおいて大いにエネルギーの節約と脱水機の小規模化ができることになる。また、処理速度も速いことが魅力である。今後、定量化され、メリットの出る条件が提示
されることが望まれる。



マグネット解析 2P-p15-18 座長 岩井 貞憲

本ポスターセッションでは、高温超電導コイル、およびMRIマグネットの数値解析に関連する3件の発表があった。
2P-p15:本田(九州大学)HTSテープ線材を積層した並列導体の偏流特性に関する回路解析の結果が報告された。今回、新たに線材Icの磁場角度依存性を、回路内の各素線、各ターンに
導入したとのこと。3本の素線でIcが分布することにより、偏流がより顕著になる傾向が得られている。
2P-p16:石山(早大)超電導SMESの適用範囲を大幅に拡大することを目的とした新プロジェクトに関する発表がなされた。REBCO線材を想定したSMES用コイルの目標として、発生磁場50 T
を達成可能な機械強度5 GPa、電流密度500 A/m2のコイル仕様を掲げている。今後、YOROIコイルの改良、無絶縁コイルのターン間抵抗制御、最適化設計技術をすすめていくとのこと。
2P-p18:尾崎(神戸製鋼所)従来のMRIマグネットを軸方向に短尺化するための、コイル設計案について報告がなされた。短尺化により、治療時における患者の閉塞感の緩和が期待できる
とのこと。従来1.6 mの軸長に対し、約2/3の0.9 mに短尺化する場合、メインコイルを径方向に2層に配置することで従来と同程度の巻厚のコイル設計が可能となることが示された。ただし、
線材使用量が増加することと、線材に要求される電流密度が上がることが今後課題であるとのこと。




6月1日(水)
A会場 9:45-15:15

MRI高安定磁場コイル 3A-a01-07 座長 柳澤 吉紀

本セッションでは、三菱電機、京大、東北大のグループから、REBCO高温超伝導コイルを用いたMRI開発プロジェクトに関する一連の7件の発表があった。プロジェクトの集大成的な
発表で、質疑の絶えない活発なセッションとなった。
3A-a01:横山(三菱電機)らは、経済産業省およびAMEDの委託・支援事業であるMRI開発プロジェクトについて、高温超伝導(REBCO)MRI開発の背景・目標から始め、今回得られた
開発成果の全体像をまとめて発表した。
3A-a02:横山(三菱電機)らは、300 mmボア3 Tコイルと、300 mmボア3 T評価コイルの通電試験結果を報告した。前者は、1.4-1.5 Tの磁場において、電極付近の線材の劣化により、
熱暴走し、焼損したとのことである。後者は、3 Tでの運転に成功し、磁場安定性・均一性の評価、シミング、イメージングなどの評価を行った。
3A-a03、3A-a04:松田(三菱電機)らは、3 T評価コイルの均一磁場設計、冷却、励磁、鉄シムによる磁場均一度向上、イメージングの結果を報告した。3 T高温超伝導MRIで世界初の
マウスのイメージングが示された。鉄シムによる高次成分補正の課題や、適正オーバーシュートに関しての議論があった。
3A-a05:谷内田(京大)らは、遮蔽電流の緩和による磁場変動を抑制する手法として、MRI子オイルにおけるオーバーシュート法の効果を示した。高磁場(高運転電流)であるほど、少ない
オーバーシュート量で済むとのことである。
3A-a06:三浦(東北大)らは、前報に続き、オーバーシュート法の効果を、小型の試験コイルにおいて、運転電流をパラメータとして詳細に調べた結果を報告した。前報の内容と合わせ、
実コイルにおける効果的なオペレーションが得られるよう、さらなる進展が望まれる。
3A-a07:中村(中村)らは、遮蔽電流の予測には通電(E-J)特性の正確な把握が極めて重要であるという問題意識から、300 mmボアコイルについて、線材長手方向のばらつきも考慮
した通電特性を導き出した。これを用いて、今後、詳細な遮蔽電流開発がなされるとのことである。


加速器 3A-p01-04 座長 西島 元

加速器セッションには4件の報告があった。
最初は榎本(KEK)によるLHC高輝度アップグレード用超伝導磁石開発についての報告で、2 mモデル双極磁石の製作、冷却、励磁試験結果について報告された。KEKで内作された
NbTiモデル磁石の1.9 Kにおける励磁試験では、クエンチ電流値は線材の負荷率から予想される電流値には届かなかったものの、20回程度のトレーニングの後、一定値に飽和する
傾向を見せ、最後の3回で低下傾向であった。コイルの一部が劣化している可能性があるとのことであった。
2件目は増澤(KEK)による磁気シールド材料の低温透磁率に関する報告で、地磁気程度の磁場をパッシブにシールドするために用いられるパーマロイの透磁率が、低温でカタログ値
と乖離しているという報告であった。同じメーカーの材料でも試験片間のばらつきが見られ、変形や熱処理によっても低温透磁率が変化するということでで、非常に繊細な材料である。
メーカーや加工業者との協力が不可欠ではあるが、将来的には標準化への取り組みが必要かもしれない。
3件目と4件目はJST S-イノベ「高温超伝導を用いた高機能、高効率、小型加速器システムへの調整」によって開発されているREBCO (RE-Ba-Cu-O; RE=希土類) 超伝導線材を
用いた加速器マグネットに関する報告であった。このプロジェクトでは医療用重粒子線加速器マグネット群の高温超伝導化を目指している。
4件目の小柳(東芝)はこのモデルマグネットの製作と冷却試験について報告した。同社が他のREBCOコイル開発で培ってきた技術が共有されており、線材垂直方向熱応力を低減
するためにターン間を適当な間隔で離型しつつ全体をエポキシ含浸する技術で製作されている。コイルは約100時間で冷却完了し、現在京大において試験中である。試験結果は3件目
に李(京大)によって報告された。遮蔽電流の影響を詳細に調査するために、常伝導状態と超伝導状態におけるジバブンプが測定され、その差から遮蔽電流の影響が評価された。
安全のために現在はまだ10 Aまでの通電であるが、励磁試験は継続されるとのことであった。


電気機器 3A-a05-08 座長 川畑 秋馬

3A-p05:山下(鉄道総研)らは、山梨県米倉山の太陽光発電施設に設置された超電導フライホイール蓄電装置(FESS)の8カ月に亘る実証試験結果を報告し、系統連係試験での
発電電力の平滑効果の検証、最高3000 kWの出力で延べ3000時間超の安定浮上などが首尾よく実施できたことを示した。クエンチ時の対処法、フライホイールの回転数向上の
ための振動低減対策などに関する議論があった。
3A-p06:中尾(古河電工)らも引き続き、FESSの実証試験結果について報告した。直径2 m、重量4 tonのフライホイールを、設計浮上高さ20 mmに対し制御範囲の±0.5 mm内で
長時間安定浮上できたことや超電導磁気軸受の適切なヘリウムガス圧などについて示した。ラジアルベアリングの荷重の割合や設計寿命の決定要因についての質疑応答があった。
3A-p07:郭(京大)らは、自動車などの輸送機器への実用を目的とした20 kW 級高温超伝導誘導同期モータの研究において、前報で実験的に示した2 倍以上の過負荷すべり出力が
実現可能であることを解析的にも再現できたことを報告した。超電導機器を磁束フロー状態で使用することについて、熱い議論が交わされた。
3A-p08:岡崎(エネ総工研)らは、再生可能エネルギーの不安定性を解決する手段として注目され始めている風力熱発電に超電導発熱機を適用した場合の経済性の検討結果を示した。
システムの高温化・高効率化が可能な超電導発熱機の導入は、超電導の採用などによる高コスト化を考慮しても十分実現可能であることが報告された。今後の動向に注目したい。




6月1日(水)
B会場 9:45-15:45

送電ケーブル 3B-a01-03 座長 星野 勉

石狩プロジェクトで得られた知見に基づく発表とIEA-HTS委員会調査の概要報告があった。
3B-a01は超電導ケーブルコアの敷設方法に関する発表で、ケーブルコアの熱収縮を吸収する敷設方法の実証に基づく提案であった。この敷設方法 によれば、断熱管にコルゲート管
ではなく直管を用いることができ、ケーブルコストを削減することができることが紹介された。ただ、断熱内管の熱収 縮については、触れられていなかった。
3B-a02は、断熱2重管に輻射シールドを導入することにより、ケーブルコアを収納する内管への熱侵入を従来方式の4 %に出来たとしている。戻り管も含めると 従前の70 %になった。とくに
ケーブルコアを収納するケーブル管への熱侵入が減ったことで、導体損などを熱的に測定することの可能性も示された。
3B-a03はIEA-HTS委員会で行われた100名以上へのアンケート調査で、線材価格の将来動向、商品化時期、送電ケーブル、限流器の商用 化時期について報告があった。SMES、
発電機、変圧器に先立って実用化されるとの見通しである。とくに韓国電力が、ケーブルと限流器を商用使用 する動向について触れられた。


交流ケーブル 3B-a04-07 座長 富田 優

3B-a04:森村(住電)らは40 m の66 kV級超電導ケーブルシステムを用いた28.5 kA, 0.6 sの短絡電流試験結果を報告した。温度・圧力の過度な変化が確認されないこと、コアへダメージ
がないことがわかった。
3B-a05:竹田(早稲田大)らは3B-a04の試験結果と解析結果の比較について報告した。自作した解析コードを用いたところ、試験結果と解析結果が良く一致することがわかった。
3B-a06:横尾(早稲田大)らは275 kV, 3 kA級超電導ケーブルシステムにおいて7.77 kA, 30 sの過負荷電流が印加された際の挙動解析の結果を報告した。絶縁層が約23 mmと厚いため、
数百秒オーダーでは往路と復路の冷媒がほぼ熱的に絶縁されており、導体層は往路冷媒の温度、シールド層は復路冷媒の温度とほぼ一致することがわかった。
3B-a07:榊原(東北大)らは、三相同一軸超電導ケーブルの定常運転時における冷凍機・ポンプ動力の定格電流・負荷率依存性の解析結果を報告した。定格電流に対し、可能な限り負荷
率を大きく設計した方がよいことがわかった。


Y系線材通電特性評価 3B-p01-04 座長 柁川 一弘

3B-p01:東川(九大)らは、RE-123線材を幅方向に4分割した113 m長のマルチフィラメント線材を対象に、独自に開発したリール式走査型ホール素子顕微鏡
(RTR-SHPM)を用いて残留磁界の2次元分布を測定し、局所的な臨界電流密度分布や長手方向のフィラメント幅分布を評価した。
3B-p02:郭(九大)らは、Roebel導体用にRE-123線材をパンチング加工した2 mm幅の素線を対象に、前述と同様のRTR-SHPMを用いて、局所的な臨界電流
密度の2次元分布を非破壊で評価した。
3B-p03:足立(鹿児島大)らは、低損失用に加工されたマルチフィラメントHTSテープ線材内の電流分布を定量的に評価するために、ピックアップコイル郡を用いた
電流分布測定法の精度向上を目指して、検出コイル幅や断面積、測定距離などを変化させた場合の空間分解能について検討した。
3B-p04:野村(明治大)らは、AEセンサを用いたGdBCO線材内の剥離診断の可能性を検証するために、加熱処理により意図的に剥離を模擬した試料の片方の
幅広面上から送信した超音波の伝搬特性をもう一方の幅広面上で受信し、剥離部と健全部のAE信号の周波数特性に違いがあることを明らかとした。


人工ピン(2) 3B-p05-10 座長 藤吉 孝則

3B-p05:藤田(フジクラ)らは、磁場中の臨界電流密度Jcの向上を目指して、Hot-wall PLD法により、GaBCOやEuBCO線材にBaHfO3やBaZrO3を人工ピンとして導入した。特に、BaHfO3
を導入したEuBCO線材は、4.2 KでFp=1.67 TN/m3(@18 T)という非常に高い値を得ている。
3B-p06:鈴木(九大)らは、IBAD基板上にPLD法で作製したBaHfO3人工ピンを導入したEuBCO線材のJc特性をパーコレーションモデルを用いて解析している。これにより広い磁場・温度
範囲の輸送特性の記述を行った。解析結果は、実験結果をよく再現しており、パーコレーションモデルによる定式化が有効であることを指摘した。
3B-p07:小野寺(九大)らは、BaHfO3人工ピンを導入したEuBCO線材を用いて、テープ面に垂直な外部磁界の印加によって遮蔽電流を誘起して磁化緩和を測定している。また温度を
変えて臨界電流密度を変化させ、遮蔽電流に対する臨界電流密度の比を人為的に変化させた場合の磁化緩和特性について調べている。緩和特性より導出される電界-電流密度特性
の解析をもとに、温度変化によって変わる磁気モーメントの緩和特性を定量的に記述する手法について考察した。
3B-p08:山崎(産総研)らは、共蒸着法を用いて通常より低温で成膜した YリッチのYBCO 薄膜の微細構造を調べ、微細なY2O3ナノ析出物を含んでいることを観測した。また、高温度
T ≥ 60 K)の Jcは通常薄膜より低いが、低温度(< 40 K)のJcが高くなるクロスオーバー現象を観測している。
3B-p08:山崎(産総研)らは、3B-p08の発表で観測した低温成膜YBCO薄膜のクロスオーバー現象を説明するために、コアピン止め相互作用により要素ピン止め力を求め、直接和を仮定
して磁束ピン止め特性を計算した。この薄膜では、Y2O3ナノ析出物がコヒーレンス長の2倍より小さいため、ランダムピンのスケーリング則が観測できることを指摘した。
3B-p09:堀出(九工大)らは、異なるBaSnO3(BSO)添加量を有する2種類のYBCO+BSOターゲットを交互にレーザーアブレーションすることにより、YBCO+BSO/YBCO+BSO多層薄膜を
作製した。TEM観察により多層膜構造が作製できていることを確認している。また、Jcの磁場角度依存性を測定して、層間隔を変化することにより特性が変化することを指摘した。


6月1日(水)
C会場 9:45-15:30

活性汚泥法 3C-a01-03 座長 秋山 庸子

磁化活性汚泥法を用いた実用を視野に入れた水処理技術について、3件の発表が行われ、フロア人数は十数名と若干少ないながらも、活発な質疑が行われた。
まず3C-a01渡辺ら(宇都宮大)の発表は2段直列磁気分離による実証実験の内容であり、磁石の構造や目標値についての質問があった。
3C-a02佐藤ら(宇都宮大)の発表は食品実排水処理のパイロットスケール実験の内容であり、スケールアップの際のスケール則に関しての質問があった。
最後の3C-a03酒井ら(宇都宮大)の発表は磁化活性汚泥法を適用した際の電力消費の見積もりについての検討であり、磁気分離法を導入することによる各プロセスの電力消費
低減やコスト削減への寄与について議論が行われた。
本セッションを通じ、磁化活性汚泥法の実用への道筋がより明確になってきたように思われた。


磁気分離(2) 3C-a04-07 座長 酒井 保蔵

超電導磁石による磁気分離応用を開拓している西嶋ら(阪大他)の研究グループから4件の報告があった。
3C-a04 火力発電所の循環水には配管から鉄が溶出し、酸化鉄スケールが内部に析出して発電効率が低下する。磁気分離による酸化鉄粒子をフローから除去することでスケール
抑制を狙って実用化検討を推進している。今回、秋山ら(阪大他)は、上流側の磁気フィルターを下流側より荒目とすることで、フィルター全体を有効に使う方法を提案した。パイロット
試験として、暖房ボイラーシステムに適用し目詰まりを抑制できた。火力発電所との違いやフィルターの逆洗方法などについて質疑応答があった。
3C-a05 三沢ら(阪大他)はリサイクルプラスチックの分離について報告した。比重分離と磁気アルキメデス効果を併用して、3種類のプラスチックを1ステップで分離できることを原理的
に明らかにした。溶液の後処理や磁気アルキメデス法のメリットなどについて議論があった。
3C-a06、a07 セシウム汚染土壌の減容化に関する発表が2件あった。堀江ら(阪大他)は土壌中の有機物がセシウム吸着粘土粒子の分離を妨害することから、炭酸カリウムで有機物
処理して除染効率を低下できることを示した。薬剤の効果や安全性などについて議論があった。引き続き、秋山ら(阪大他)は、福島県南相馬市で、実土壌を用いて75 μm以下の土壌
粒子の除染・減容化を実証試験した。その結果、10~75 μmの2:1粘土粒子は磁気分離できるが、10 μm以下になると難しいことが示された。磁気フィルターの高性能化などについて
議論があった。


液体水素応用・数値熱解析 3C-p01-06 座長 高田 卓

オーラルセッション「液体水素応用・数値熱解析」は、1件の液体水素液面計測, 2件の冷媒タンクの振動下の熱流動、2件の液体水素中の沸騰解析プログラム、1件の熱解析による
再凝縮型のヘリウム循環冷却システムの検討の計6件発表があった。鉄系超伝導を使用することで、液体水素温度にTcを近づけた超伝導液面センサーの開発を始められており
(3C-p01)、一方で先行するMgB2を使用した超伝導液面センサーを使用した液体水素輸送時のスロッシング、さらには蓄圧条件を含むタンク内熱流動の研究(3C-p02,03)が発表され、
液体水素の貯蔵・輸送に対する研究の活発な進展がうかがえた。また、液体水素を超伝導機器冷却へ応用する場面での基礎データとなる実験的に得た沸騰曲線を再現する熱解析
コードが発表され(3C-p04,05)、わずかにギャップがあるものの水素利用の為の基礎的理解も進んできていることが明らかとなった。さらに、走査型プローブ顕微鏡への適応を目指した
再凝縮型のヘリウム循環冷却システムについてその計画の進展とシステムの熱解析結果が示され(3C-p06)、冷却システムの構築実現性の高さが示された。


6月1日(水)
D会場 9:45-11:30

冷却システム(2)・安全 3D-a01-04 座長 池内 正充

「3D-a01:玉嶋(京大)」液体水素の自然対流下での沸騰現象の観察について報告があった。
・線材上への冷却フィンの取り付けについて質問があり、ハンダ付けで行ったとの回答であった。
・上記に関連して作成したサンプルの劣化の可能性が認められるとの報告に対し、作成前後のIc測定を行うことで事前に劣化の確認が可能ではないかとの
コメントがあった。
・フィンの作成についてフィン効率を考慮したのかとの質問に対し、沸騰状態でのフィンの効果を調べるものでありフィン効率は関係なく、線材表面の沸騰部分から離れたフィン先端部
における冷却がどのように寄与するのか観察することが目的であるとの回答があった。
「3D-a02:小田(IHI)」ITER-Indiaに納入された超臨界ヘリウム循環ポンプについて報告があった。
・メンテナンスの方法について質問があり、稼動部分が一体となって引き抜ける構造であることを図を使って説明がされた。
・上記に関連して組立時のアライメント調整の方法について質問があり、事前に効率と信頼性の点から最適なクリアランスを設定し、インロー調整に反映させているとの回答があった。
・ITERに選定された理由についての質問では、選考理由は公表されていないが、磁気軸受の採用による高信頼性とインペラの高効率が評価されたと理解しているとのことであった。
「3D-a03:池田(筑波大)」苫小牧に設置した超伝導重力計の運転に関し、報告があった。
・計測の目的について質問があり、貯留したCO2の漏洩を連続的に検知すること、との回答であった。
・空気がコールドボックス内に混入した具体的な場所について質問があり、写真を用いて場所の説明がなされた。
・すでにCO2貯留が始まっているが、モニタリングした結果から知見が得られたのかとの質問については、CO2が100万トン貯まって1 µGal程度の重力変化であり、現状では
分からないとのことであった。
「3D-a04:高田(核融合件)」MLIの燃焼試験について報告があった。
・実際の火災はあったのかとの質問に対し、コールドボックスを開放して溶接中、(養生していたにもかかわらず)MLIに溶接の火花が着火したことがあったとのこと。
・宇宙空間でもMLIは使用されるが注意点は何かとの質問には、酸素の供給を絶つことが重要との回答であった。
・研究者から、ポリエチレンの酸素指数が公表データで異なっており、単純にポリエチレンの燃焼特性を決め付けられないとの発言有。


液体窒素熱伝達 3D-a05-06 座長 白井 康之

当セッションでは、2件の発表があった。
1件目(3D-a05)は、大平氏(東北大学)から、気液二相流窒素の圧力損失に関する実験と評価の報告があった。液体水素を燃料とするターボジェットエンジンでは、始動時や高速飛行
時に液体水素が気液二相流となるため、配管系の圧力損失評価が重要となる。発表では、液体水素での評価の前段階として、液体窒素を用いた試験装置を構築し、前段の加熱部
(1200 mm)で後段の水平非加熱円管(非加熱部1100 mm)での熱平衡クオリティを制御し、これをパラメータとして非加熱部の流動を高速度カメラで可視化し、圧力損失を測定して
既存のモデル式と比較検討している。クオリティの測定方法や測定場所、液体水素とした場合の相違点についての質問があった。
2件目(3D-a06)は、野沢氏(秋田高専)から、多孔体ニクロムを発熱体とした液体窒素沸騰曲線について発表があった。実験で使用した多孔体ニクロムは、1.6 x 3.2 x 100 mmの
矩形断面ワイヤで、平均開気孔径は0.6 mmである。加熱度の大きい非沸騰領域および核沸騰領域で、熱流束の増加に対して抵抗が減少する結果が得られた。加熱による対流、
気泡の離脱による強制対流の効果が現れていると推測している。多孔体ニクロムの抵抗温度特性を測定し、表面温度を評価して通常の沸騰曲線で議論されるようコメントがあった。